中途入社者の「貢献実感」を促進する要因とは何か? ~甲南大学 尾形教授との共同研究~

「中途入社者が入社後活躍するためには、何が必要なのか」。
このことを明らかにするために、入社後活躍研究所では、甲南大学 尾形教授と共同研究を行なっています。

今回は中途入社者の 「貢献実感」について分析を行ないました。「貢献実感」とは、中途入社者が組織や職場に対して自分が役に立っている感覚のことです。「貢献実感」を得ている中途入社者は組織から期待されるパフォーマンスを発揮し、活躍していることが推測されます。 「入社後活躍の要因」を理解するために重要な要素の一つです。

中途入社者が「貢献実感」を得るためには、組織側でどのような施策が必要なのか、入社者側でどのような行動が必要なのか。530名の中途入社者に行なったアンケート調査の分析結果から考察します。

※本調査は尾形教授に分析と分析結果の解釈に対する助言をいただき、まとめています。

目次

調査のサマリ

  • 中途入社1年後に「貢献実感」を得ている人は 39.2% 
  • 「貢献実感」を促進する要因は以下。
     組織側 :「RJP」「コミュニケーション風土」「タスク重要性」
     入社者側: 「フィードバック探索行動」
  • 「貢献実感を促進する組織側の施策」の中で、一番実施できていないものは 「RJP(39.5%)」
  • 「フィードバック探索行動」が出来ている中途入社者は 48.7% 
  • 「貢献実感」にマイナスな影響を与える要因は 「精神的プレッシャー」だった。
  • 「精神的プレッシャー」を感じている割合は56.2%

調査の詳細

①中途入社1年後に「貢献実感」を得ている人の割合

「貢献実感」を得ている中途入社者の割合は「39.2%」でした。

②「貢献実感」を促進する要因は何か?

様々な組織側の施策・中途入社者側の行動の中で、「転職先のRJP(※)」、「コミュニケーション風土」、「タスク重要性」、「フィードバック探索行動」が「貢献実感」に好影響を与える結果となりました。一方で、「精神的プレッシャー」はマイナスの影響を与える結果となりました。

※RJP…「Realistic Job Preview」の略。日本語では「現実的な職務予告」。企業が採用活動の際に、求職者に仕事や組織について良い面だけでなく悪い面も含めた、ありのままの情報を提供すること。

(◎好影響、-影響なし、×悪影響)

転職先のRJP

質問内容
・「選考中に面接官から、自社のネガティブな面についても率直に説明された」
・「選考中に会った社員は、自社の実態についてありのままの情報を提供してくれた」

入社後に成果を出し、「貢献実感」を得るためには、入社する組織や仕事の厳しい面について、入社前に理解しておくことが重要だということがわかります。ネガティブ面への事前理解がなければ、期待と現実とのギャップが生じ、中途入社者のパフォーマンスを阻害します。「こんなはずじゃなかった」という心理状態では、高い成果を望むことは難しいでしょう。

コミュニケーション風土

質問内容
・「職場では活発なコミュニケーションが行き交っている」
・「他のメンバーに対して躊躇なく自分の意見を発言できる職場だ」

新しい環境で問題に直面している中途入社者が、気軽に相談したり、コミュニケーションを取りやすい環境であることが、パフォーマンスに影響を及ぼすことが考えられます。コミュニケーションが活発な職場の方が多くの同僚と関係性を構築しやすく、仕事で遭遇した問題についても相談しやすくなります。

タスク重要性

質問内容
・「現在の仕事は、社会にとって有意義な仕事である」
・「自分の仕事がどんな役割を持つのかを理解できている」

自分の仕事の価値や意味を認識は、主体性を高め、高い成果へとつながると考えられます。組織は中途入社者にどのような仕事を割り当てるか。仕事の価値や意味を実感させるコミュニケーションをいかにとるかが重要になるでしょう。それには、上司の役割が重要です。

フィードバック探索行動

質問内容
・「仕事の成果を高めるために、上司や同僚に積極的にアドバイスやフィードバックを求めている」
・「自分自身が成長するために、上司にアドバイスやフィードバックを頻繁に求めている」

中途入社者が成果を出すためには、自身の仕事を改善するための有益なアドバイスが必要であることが解ります。また、仕事は他者との協働で成り立つものであるため、上司や同僚との良い関係性を作ることも重要です。自ら関係性を積極的に構築することがパフォーマンスを左右します。

精神的プレッシャー

質問内容
・「ミスが許されないというプレッシャーのかかる仕事だ」
・「仕事の目標達成へのプレッシャーが常にある」

ミスが許されないと感じたり、目標達成について高いプレッシャーを抱える中途入社者は貢献実感が低下してしまうことがわかります。中途入社者は新しい仕事のやり方を覚えたり、人間関係を構築したりしなければならず、適応まで時間がかかります。即戦力とみなし、要求レベルを上げすぎると貢献実感にネガティブな影響を与えることとなります。ここでも仕事の割り当てを考えることが重要であることが理解できます。

③「貢献実感」に影響を及ぼす要因に対するアンケート結果

好影響を及ぼす組織側の要因の中で、中途入社者が最も実感できていない施策は「転職先のRJP(39.5%)」。入社側の要因である「フィードバック探索行動」ができている人は48.5%。マイナス影響を及ぼす「精神的プレッシャー」を感じている中途入社者は56%という結果となりました。

まとめ

昨今、企業の中途採用計画数は増加し、社員構成における中途採用者の割合は増え続けています。中途入社者に活躍してもらい、「貢献実感」を得てもらう。そのために必要な「組織側の施策」とは何かを知ることは、企業にとって非常に重要だと考えられます。

今回の調査では、入社から1年が経過した中途入社者の中で「貢献実感」を得ている人は39.2%であることが解りました。中途入社者の活躍が重要なこれからの社会にとって、まだまだ改善の余地がある結果と言えるのではないでしょうか。

中途入社者の「貢献実感の向上」には、「RJP」「コミュニケーション風土」「タスク重要性が有効」であることが明らかになりました。入社前にネガティブな面も含めたリアリティのある情報を提供しておくこと。入社後には、上司がコミュニケーションしやすい雰囲気を作り、仕事の意味や意義について定期的に話し合うこと。このようなことが、中途入社者の活躍につながっていくと考えられます。

中途入社者の「フィードバック探索行動」も「貢献実感の向上」に有効であることが明らかになりました。これは中途入社者自身の行動ではありますが、その行動を促進させるような組織的な働きかけをすることが重要だと考えられます。コミュニケーション頻度を増やして、話しかけやすい雰囲気を作る。仕事の自律性を高め、フィードバックを求めざるを得ない仕事の任せ方をする。こういったことが考えられます。

「精神的プレッシャー」はマイナスの影響であることが解りました。当たり前ですが、仕事には求められる成果があります。プレッシャーは付き物です。しかし、中途入社者は早期に成果を出そうと焦っていますし、周りからも即戦力と見られがちです。そのような中で、中途入社者にプレッシャーを感じさせることは貢献実感に悪影響を与えます。まずは中途入社者に精神的安心感を与えられるようにすることが重要です。

「貢献実感の向上」に好影響を与える施策の中で、最も中途入社者に知覚されていないのは「RJP」でした。売り手市場の中でネガティブな面を伝えづらいことは多いに想定できます。しかし、「RJP」を実施しなければ、入社後のパフォーマンスが下がることが今回の調査でも明らかになりました。企業にはぜひ実施していただきたいと思います。

今回の調査が少しでも参考になりましたら幸いです。

尾形教授からのコメント

少子化によって労働生産人口が減っていくにもかかわらず、生産量は変わらない、あるいはそれ以上が求められている状況において、いかに人材を確保していくのか重要な組織課題となるでしょう。そのような中で、人材確保の重要な手段の1つが中途採用になります。近年の我が国における労働市場を見ると、企業にとって中途採用は有効な人材確保の手段であり、その需要は今後益々高まっていくと考えられます。だからこそ、中途入社者をいかに組織に適応させるかは重要なテーマと言えます。

今回の調査報告は、中途入社者530名への質問票調査を実施し、統計的に分析したもので、「貢献実感」に影響を及ぼす要因を解明しています。中途採用者は、即戦力として採用されるため、自分自身が戦力として会社や職場に貢献できているという貢献実感は、組織適応を測定する重要な指標と言えます。しかしながら、記述統計の結果からは、貢献実感を得られている中途入社者は39.2%であり、少ないと言えるでしょう。中途入社者が貢献実感を得られるのは、1年以上の時間を有するということが理解できるかもしれません。

そこで中途入社者の貢献実感に影響を及ぼすものは何かを理解することは有意義です。分析の結果、中途入社者の貢献実感に影響を及ぼす要因として、中途入社者自身の行動ももちろん重要ですが、それ以上に組織や職場の上司の役割が重要であることが理解できました。仕事に関する正確な事前情報を提供するRJPは人事の役割ですし、重要なタスクを割り当てることや職場のコミュニケーション風土を醸成するのは、上司の役割が多大です。さらに、人事部員や上司が中途入社者の精神的プレッシャーを緩和するサポーターの役割を果たすことも重要でしょう。中途入社者に期待通りのパフォーマンスを発揮してもらうためには、人事部や職場の上司の役割は重要です。

PROFILE

甲南大学経営学部 教授 尾形 真実哉(おがた まみや)氏

1977年 宮城県生まれ。専門は組織行動論、経営組織論。研究テーマとしては、若手社員の組織社会化や中途採用者の組織再社会化、人材育成、特に育成型リーダーの育成など。単著に『若年就業者の組織適応:リアリティ・ショックからの成長』(白桃書房)、共著に『人材開発研究大全』(東京大学出版会)、『日本のキャリア研究:組織人のキャリア・ダイナミクス』(白桃書房)、『経営行動科学ハンドブック』(中央経済社)、『入門組織行動論第2版』(中央経済社)など。

調査概要

■調査方法:Webアンケート
■調査対象:中途入社から1年が経過した方
■有効回答数:530名
■調査期間:2019年6月30日~9月9日
■URL: https://corp.en-japan.com/success/21537.html

中途入社者の活躍を支援するために

中途入社者の活躍させる要素の一つである「貢献実感」。これには組織や職場の役割が重要であることが、今回の調査から見えてきました。

必要なことは、これを本人任せにするのではなく、人事、現場の上長、経営層が情報連携しながら「組織」をあげて入社者をフォローしていくということです。

エン・ジャパンが提供するタレントマネジメントシステム「タレントビューアー」は、従業員の業務進捗や面談履歴など、あらゆる人事情報を一元化・分析することが可能です。そしてこれらのデータを経営・人事・職場の上長間で情報連携することも簡単にできるようになります。

中途入社者の貢献実感醸成にあたり、一度社内の情報活用の環境チェックをしてみてはいかがでしょうか?

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